「頂」 二題
頂上や殊に野菊の吹かれ居り
・ 原石鼎
「山頂」の話を書いたら、原石鼎の名高い俳句を思い出した。
もっともこの頂上は金沢・野田山ほどの山なのであろうし、川上哲治氏とは何のかかわりもなさそうなのだが 。
風が吹く山の上、と言えば、こんな詩も思い出す。
ただリフレンのみを繰り返す未完成の歌に過ぎないのだが、実は若かったころの私の最も好きな詩のひとつだったらしい。
まあ、せんちめんたる、ですなあ、と笑わば笑え、でございます。
暇をついでに載せておこう。
山上のひととき 中原中也
いとしい者の上に風が吹き
私の上にも風が吹いた
いとしい者はたゞ無邪気に笑つてをり
世間はたゞ遥か彼方で荒くれてゐた
いとしい者の上に風が吹き
私の上にも風が吹いた
私は手で風を追ひのけるかに
わづかに微笑み返すのだつた
いとしい者はたゞ無邪気に笑つてをり
世間はたゞ遥か彼方で荒くれてゐた
いまこのように書き写し、たとえばこのような詩を歌い、このような「ひととき」を人生の或る極点と思いなした男の人生がどんなふうだったかを思えば、なにやら「ぼーよー、ぼーよー」とした思いがいたします。