凱風舎
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ボイジャー

 

『もうそこにいるのか』 という問いの答えは 『その通り』 だ。


― ボイジャー計画の責任者・エドワード・ストーン教授の談話―

 

 

ボイジャー1号は飛び続けているらしい。
1977年に地球を飛び立って以来35年、飛び続けて飛び続けて、ついには太陽系の外に完全に出てしまったらしい。
12日NASAがそう発表した、と先日の新聞に書かれていた。
太陽の「重力圏」はとうに越え、いまや太陽風も届かぬ「星間空間」というところに彼は出てしまったらしい。

35年というとずいぶんの時間のように思うが、「ハレーすい星」の周期は76年だというし、20年ほど前ぼくらがその姿をはっきりと目にした「へール・ボップすい星」に至っては確か2000年以上の周期で太陽の周りを回っているという話だった。 
ボイジャーがたった35年で太陽系外に出てしまったというのはなにやら不思議な気がするが、それはたぶん時速6万キロという速さのせいなのだろう。

時速6万キロと言えば、秒速にすれば17キロだ。
その速さが彼を「星間空間」に押し出したのだろうか。
彗星たちは十分な速さを持たないがゆえに太陽の周りを回っているのだろうか。
私には本当はよくわからないのだが・・・。

ちなみに、こないだの「イプシロン」のようなロケットが地球の重力を脱して宇宙空間に飛び立つには、少なくとも秒速11キロメートルの速さが必要なんだそうだ。 
それがどれほどのエネルギーを要するものなのか、テレビの映像しか知らない私たちは、ロケットのお尻から噴き出す光の束から想像するしかないが、実際にスペースシャトルの打ち上げを見た人の話によれば、数キロ離れたところにいても、ロケットの噴射によって、立っている地面が足元からゴ―と揺れるほどのものなのだという。
はてさて「重力」を脱するとは、なんたるものすごいエネルギーがいることでありますか!

それにひきかえ、二十歳前後の頃、われわれが自分の家族のもとから離れるのにはたしてエネルギーは必要だったんだろうかしら。
小中高校と少しずつ親から距離を取ることを覚え、気が付いたらいつのまにか親元から離れていた・・・といった具合だった。
それは、家族という重力からの離脱というより、むしろ熟した木の実がもっと大きな地球の引力に引かれて落ちるように 離れたもののようだ。
そのくせ、盆正月などの折々は帰省したりして、やっぱり私たちは家族の引力圏を回っている。
私たちはボイジャーじゃないなあ。
多くは惑星、あるいは彗星のようなものだな。

ボイジャー。
今どんな気分でいるんだろう。
ふるさと地球はおろか、太陽すら点よりも小さく見えるところを飛んでいるんだものなあ。
そしてたった一人ずっとだれもいない空間をこれからも飛び続けていく。
なんだか西部劇か何かで最後に去りゆく男の背中を見てるみたいな気分になってくるなあ。
このまま宇宙の果てまで行ってしまうんだろうか。
そうして、いつか宇宙をも抜け出して「非宇宙空間」にまで行くんだろうか。
もっとも「宇宙」というのは「時間と空間」という意味だから、そこを抜けたところに果たして非宇宙「空間」なんてものがあるのかどうかわかりはしないんだが。

それに現代物理学が教えるところによれば、「宇宙の重力圏」を 離脱するには光と同じ速さがないと無理なんだそうな。
光の速さ、秒速30万キロ! 
対するボイジャー、秒速17キロ。
うーん。
なんだかお釈迦さんの掌に載っている孫悟空みたいだなあ。