凱風舎
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完全制御


りんりんと銭投ぐを止めよ
さうさうと
かなしみわたる ゆふぐれの
岩うつ波に 瞳をうつせ・・・・


― 中村稔 「海女」 ―

 

 

ストライクがなかなか入らないピッチャーがいる。
四球を連発し、あげくは満塁でデッドボールまで投げてしまったりする。
もちろん、彼は
「コントロールが悪い」
と言われる。 
草野球の急造投手を除けば、ピッチャーなどというものは、ひたすらストライクゾーンにボールを投げることを練習してきた者たちである。
にもかかわらず、ストライクはなかなか入らぬものなのである。

毎日交通事故が起きている。
正しいハンドル操作ができずに車をコントロールできなかったのである。
列車事故も起きる。
飛行機事故だって起きる。
科学技術の粋を集め、あれだけ多くのスタッフに見つめられている宇宙船においてすらその機器を完全にコントロールはできるわけではない。
かつてエンデバーは炎上し、ハヤブサは一時制御不能になって地球に戻って来た。
先日のイプシロンの秒読みは空しく響いただけだった。

ゲリラ豪雨が起きる。
竜巻も起きる。
地震が起き、津波が起きる。
人はそれを制御することはできない。

人民たちを制御すべく厳しい法をもって国を支配し、自分から始まってその子孫が二世、三世と万世にわたって皇帝たらんとした始皇帝の秦は20年もたたぬうちに崩壊した。
今エジプトの混乱は収まらない。
シリアの内戦も終わりが見えない。
国際社会もそれを制御するすべを持たずにいる。

機械も人も社会も自然もそれが大きくなればなるほど完全に制御することはむずかしい。
もしそれを「完全に」近づけるものがあるとすれば、それを扱いそれに向き合う者の謙虚さだけだろう。

私は私の心すらいまだに制御できずにいることしばしばである。