朝
青春
あそこでわたしは
ここよりしあわせ
だったというのではない
ただ あそこではいつも
真夏だった
あそこではいつも
陽は真向から照りつけた
やさしい木陰なんぞどこにもない
まして白いべんちなど
あそこは まじりけのない原色の世界
影のない光の砂漠だった
あそこではなんと
身軽だったことか
虚飾も欺瞞も
欲情や懊悩も
かけ値なしの飢えや怒りですら
奔放に傲慢な翼をひろげた
ばかでかい心の 重荷にはならなかった
あそこではなにものこらなかった
なにもかも 燃えてしまうので
あそこに戻っても無駄
あそこはとおりすぎた過去
知りぬいた日から だがわたしの
あそこへの渇望は
はじまったのだ
― 征矢泰子 「青春」 ―
そうは言っても、やはり秋はやって来るのだ。
昨夜遅く降りはじめた雨に道も電信柱もすっかり濡れているが、空はあさぎ色に晴れてやさしい白い雲が浮かんでいる。
涼しい。
ヤギコは椅子に眠っている。
台所で飯の炊ける湯気が上がっている。
その湯気の白ささえ秋のものだ。
今日の引用は青春を真夏として歌った征矢泰子の詩。
もちろん私に征矢泰子のような真夏としての青春への渇望なんかはまったくないのですが。