のちのおもひに
夢はいつもかへつて行った 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかえつた午さがりの林道を
― 立原道造 「のちのおもひに」―
夢はいつもかへつて行った 64年の東京五輪に
新幹線が風を巻き
高度成長の歌が聞こえる
右肩上がりの成長に
うららかな青い空には日の丸があがり アジアは眠っていた
―― そして日本は
してきたことを 敗戦を 侵略を 犠牲を 各地各地の公害を
だれも気にしてゐないふりをして 進みつづけた・・・
夢は そのさきには もうゆかない
たれもかも 経済が大事だとおもひ それさえあれば しあわせなのだおもひこんで
ほんとうのしあわせがどこにあるのか わからないまま
国の首相は 放射能の水が溢れる福島なぞ ないことのやうにして
オリンピックを招致するのだと 笑顔で旅だち・・・・
彼は――そんな「夢」こそが この国を真冬に凍りつかせるものであることを知らない