大人
おとなになりたい
おとなになりたい
おとなになりたいたい
おとなになったら
コーヒーのんじゃう
ガッポガッポ のんじゃう
ぎゅうにゅうなんか いれないでさ
― 阪田寛夫 「おとなマーチ」―
昨夜の雨のせいだろうか、洗いたてたような青空が朝から広がっている。
空気は乾いてさわやかだ。
昨日美穂が訪ねて来た。
なんでも、住民票を彼と暮らしている荒川に移すのに市役所まで来たから寄ったのだと言う。
ずいぶんひさしぶりだ。
いくつになった、と聞くと、29と答える。
そう言えば、あの9.11の夜、勝田氏からテレビをつけるよう電話がかかって来たとき、勉強に来ていたのが高校生の美穂だったのだもの、たしかにそんな年になるのかもしれない。
いやはや、月日の流れることと言ったら・・・。
その彼女、机に向かって勉強していた愛ちゃんに
「高校生?」
と聞いて、愛ちゃんが
「はい。三年生です」
と答えると、
「17?18?
そうか、17かあ、若いなあ」
なんて言ったあと
「むかしさあ、あたしも高校生の頃、今のあたしぐらいの人に
『17歳?若いわねえ』
なんて言われて、
(はあ、何言ってんの、これでもあたし、もう17年も生きてるんですけどぉ!)
なんて、思ってたけど、やっぱり17は若いのよねぇ」
などとしみじみ言っているので、笑ってしまった。
「この10月でもう、20代です、って言えなくなるんだもんねえ」
なんて言いながら、でも、相変わらずの早口、相変わらずの元気。
相変わらずの怖いものなし。
相変わらずの美穂!
聞いてるわたしは、ずっと、ふふふだった。
いろんなこと、いっぱい、いっぱいしゃべって、最後に、美穂、
「あーあ、ほんとに大人になるのってむずかしいわ」
なんて笑いながら言って帰って行った。
まあたしかにその話しぶりを聞いていると中学高校時代とちっとも変わっていないものな。
ちっとも大人じゃないみたいだ。
でも、そんな彼女をぼくも笑って見送りながら、ほんとはもう彼女はすっかり大人なんだなって思ってた。
だって、大人になるって、きっと「自分の慣れ親しんだ場」から自分を引きぬいて、「自分が見つけた新しい場」で生きようとすることをさしてるんだもの。
それを、彼女はもう軽々とやってみせてる。
しあわせになってくれるといいな。
なれるに決まっているけど、でも、やっぱりしあわせになってくれるといいな、って思った。