愛国心
「私はフランス人として判決に抗議する。」
ネイ元帥の言葉
― 井上幸治 「ブルジョワの世紀」(『世界の歴史 12 』)―
1812年のロシア遠征に壊滅的敗北を喫したナポレオンは、翌年欧州連合軍とのライプチヒの戦いに敗れ、1814年、エルバ島に流された。
その結果、フランスでは、革命で処刑されたルイ16世の弟がルイ18世として即位しブルボン王朝が復活した。
その復活を喜び、ルイ18世を取り巻いたフランス《王党派》の者たちは、もみ手をしつつ「革命以前の諸権利」を取り戻そうとした。
一方、ナポレオンによって揺るがされた「ヨーロッパの旧体制」を立て直すため開かれていたウィーン会議は難航していた。
そのような中、1815年3月1日エルバ島に流されていたナポレオンがカンヌに上陸する。
同月20日にはルイ18世はパリを逃げ出し、いわゆる「ナポレオンの百日天下」が始まる。
しかし、それもワーテルローの戦いでナポレオンが敗れ、大西洋の孤島セントヘレナに流されると、ウィーンではヨーロッパをフランス革命以前の状態に戻す《ウィーン議定書》が調印され、フランス国内ではナポレオンに与(くみ)した者たちへのテロと処刑が始まる。
その犠牲になった者の一人がネイ元帥という将軍であった。
彼はさまざまな戦いで功を上げ、中でもモスクワ退却戦の殿(しんがり)を務めて名を上げた将軍であったのだという。
言うまでもないが、敗軍の最後尾を守ることは戦いの中で最もむずかしいことなのである。
さて、その彼は、判決が下り、処刑が行われる際、目かくしをされることを
「君は私が20年以上も前から銃弾を直視してきたことを知らないのか」
と言って拒否したのだそうである。
そして、同じく処刑に際してひざまずくことをも拒んで、こうも言ったという。
「私のような人間はひざまずかぬものだ」
いずれも、彼が実に誇り高い軍人であることを知らしめる言葉だ。
そして、彼の最期の言葉は次のような言葉であったという。
「兵士諸君、これが最後の命令だ。私が号令を発したらまっすぐ心臓を狙って撃て。私はフランス人としてこの判決に抗議する。」
うーん、かっこいいなあ。
劇の中のセリフみたいだ。
などという話を書いたのは、昨日、
「原発は重要」日仏首脳会談、共同開発・輸出協力を確認
と報じられたからだ。
《安倍晋三首相は7日、オランド仏大統領と首相官邸で会談した。両首脳は「原子力発電が重要」との認識で一致し、日本での核燃料サイクルや、原発の共同開発・輸出の推進について協力を確認。武器輸出三原則の緩和をふまえた武器の共同開発でも合意し、会談後にこれらを盛り込んだ共同声明を発表した。 両首脳は会談冒頭に「パートナーシップ強化」を表明。共同声明では原発について、東京電力福島第一原発の事故もふまえて「安全性の強化が優先課題であることを共有し、原子力規制当局間の協力を拡大」と言及しつつも、仏と協力して再稼働や輸出を重視する安倍政権の姿勢を強調した。 使用済み核燃料を処理して再び使えるようにする核燃料サイクルに関し、青森県の再処理工場の「安全で安定的な操業の開始」で一致。会談後に、日本原燃が10月の完成を目指す工場の稼働に仏アレバ社が協力する覚書が交わされた。》
先日のトルコやインドへの原発輸出協定の締結に続いて、
なんとまあ、はずかしいことを!
と思う。
福島の水漏れさえいまだ直し得ず、三菱重工の作った配管が破損したアメリカ・カリフォルニアの2基の原発は廃炉になると決定されたというのに、なぜそのようなものを輸出し、再稼働しようと言うのか。
かつてブルボン王朝の復活にもみ手をして集まった「亡命貴族」たちのように、安倍自民党政権になって、昔、甘い汁を吸っていた者たちが集まり、そこに新たに甘い汁を吸いたい者たちも寄ってたかって日本という国を情けない国しようとしている。
内実のない「成長戦略」の名の下に、「原発再稼働」を言い、「国土強靭化」を言い、彼らはこの国をどういう国にしようというのか。
安倍氏は事あるごとに「美しい国・日本」という。
だが、恥知らぬ国のどこが「美しい」のであろう。
彼は、いっぱしの「愛国者」を任じているらしいが、国民からその国の国民であることを恥ずかしいと思われるような国にすることのどこが愛国なのであろう。
私は、言うまでもなく、かのネイ元帥のような英雄でも豪胆の人でもない。
けれども、日本人である以上私だってこう言う権利を持つだろう。
私は日本人として 原発輸出に抗議する!