「このごろの二冊」 勝田 正人 さん
航西日乗 成島柳北
余の欧米に航遊せしは、実に明治五年壬申の九月に解纜し、翌年七月に帰朝せしなり。
其の際見聞したる事共甚だ夥しけれど、客中怱忙筆記の暇無くして、空しく雲烟過眼に属せしもの頗る多く、今日に至りては遺憾やる方無し。
去れど旅中鉛筆にてその概略を記し置きたる日乗三巻有り、此比之を筺底より取出でたれば、此に載せて江湖の同人に示す。
其の文の拙劣なる素より論無し、唯だ其の状況を有りのままに写したるのみ。
折々得たりし悪詩も亦刪潤を加へずしてその間に挿入す。
識者の嗤笑は固より免れ難かる可し。
著者は元幕府外国奉行あるいは会計副総裁で幕府崩壊とともに三十一歳で隠居、その後ヨーロッパを一民間人として、それこそ、”漫遊”した記録です。
冒頭の一文にひかれ読んでしまいました。日記は一日も欠かさず詳細に記されておりますが、『・・・ゲーテイ劇場に赴き、パレーロワイヤルの一楼に飲む。夜雨』といった酒を飲んだ記載がとても多く、何を食べたかについては言及が乏しい一方、『・・・この日、三絶を獲たり。』と、しょっちゅう漢詩を作っており、一読、この頃の気持ち悪い日々のなか、涼風に吹かれた思いでした。
猫の本も暖かな風に吹かれた思いの一冊でした。
おたよりありがとうございます。
風が心地よいこの季節、読書も心地よい風を運んでくれることを知りました。
おいしいアイスティと薫風に吹かれて、青空の下でぼけーっと読書の時間をもてたらいいなと思います。
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