凱風舎
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Imperceptible days  1478

 

 

                 歩いてきた道の脇から
                 細い道がゆるやかな坂になって下っている
                 あたりは鬱蒼と木がはえていて向うは見えない
                 別に目的地のある歩きではない
                 とりあえず下りてみる

                 しばらく行くと
                 木漏れ日のところどころ射す
                 小暗く湿った足もとに
                 淡い紫の小さな花が落ちている

                 

 

                 見上げてみたが花の姿は何も見えない
                 けれど
                 たしかにこの木々の上には
                 藤が咲いているのだろう

 

  

                 100メートルほどゆくと
                 道は
                 明るく開けた野原になった
                
                 まだ四月だというのに
                 私のひざより深い草が生い茂った野原
                 まん中に大きな柿の木が二本立っている

                 放棄され幾年もたった畑地なのだろうか
                 なんとも不思議な場所だ                 

 

                 そんな野中の小道をしばらく行って
                 ふと振り返ってみたら
                 おどろいたことに
                 さっきの森の上には
                 たくさんの藤の花が
                 こんなにも咲き懸かっていたのだった
                 ――まるで滝のように                 

 

 

                  おお、すごいや!
                  そう思いながら、しばらく見とれていたのだが
                  そういえば 昔
                  ほかの氏族の上にはいのぼり
                  ほかの氏族に射すはずの光をすべて奪って
                  きれいなきれいな花を咲かせたのは
                  《藤原》という名の貴族だったなあ などと
                  くだらぬことを思ったりしたけれど
                  森を出て外から見る
                  森の上に咲く藤の花は
                  やっぱり、見事に美しいのだった