凱風舎
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晴れない

 

「白いちいさい雲が見えるかな、あの向うにある? わたしの指先を追ってみて、もっと右、岬のあたり」
「見える」とイザベッラが言った。
 (中略)
「よおく見るんだ」男が言った。「そしてよおく考えるんだ。雲占いに必要なのはすばやい直感だが、よく考える力も欠かせない。目を離してはいけないよ」

 

 

 ― アントニオ・タブッキ 「雲」 (『時は老いをいそぐ』 和田忠彦 訳) ―

 

 

 たばこを買いに外に出る。
 金曜日以来だから四日ぶりの外だ。
  今日、風は南。
 だが、さほどあたたかくはない。
 それでも空は晴れて、棚から伸びた藤の花が風に揺れている。

 靖国のことやら、憲法改正やら、水道の民営化やら、言いたいことはいろいろあるが、今日は書かない。
 そんなことを考えていると心は一向晴れないから。

 

 今日の引用は一週間も海水浴場にいるのにちっとも海に入らない男と、それを不思議に思った見知らぬ少女との会話。

 そう、雲を見つけたら、「よおく」見、ちゃんと直感し、「よおく」考え、そして、たぶんそれをちゃんと書かなければならない。
 そうしなければ、本当の未来は占えない。
 けれども、今日はその占いは書かない。