声
僕に言えるのは、あなたの声がしっかり聴こえているということだけです。
― いとうせいこう 「想像ラジオ」 ―
何が聞こえているのか、自分に訊いてみるがいい。
今、おまえの耳に何が聞こえているのか?
おまえはスマホやパソコンを指で操って、自分の知りたいことを知る。
だが、おまえが追い、そしておまえを満たすものは「情報」だ。
そして「情報」とは、皆が知り得ることであって、おまえだけが知ったり、感じたりすることではない。
おまえは耳にイヤホーンを差しておまえの聞きたいものを聴く。
だが、おまえの耳にささったイヤホーンは、おまえをおまえの外部と遮断している。
おまえが聴いているのはおまえの欲望であって、けっして外から届く声ではない。
おまえは聞いているのではない。
実はおまえはしゃべっているのだ。
波立つ池に石を投げ込んでも、その波紋を見ることはできない。
そうやって、おまえはおまえにとって一番大事なものを聞きのがしている。
おまえは今誰の声を聞いているのか。
おまえは今誰の声を一番聞きたいのか。
それすら、おまえはわからなくなっている。
僕に言えるのは、あなたの声がしっかり聴こえているということだけです。
そう言ってあげられるひとがおまえにはいるのだろうか。
耳を澄ます。
耳を澄まさなければならない。
その人のために。
そして、おまえのために。