凱風舎
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ホーリーモーターズ

ホーリーモーターズ

レオス・カラックス監督

変な映画を観ました。

その映画は突然始まります。

いや、本編が始まる前によくわからない悪夢みたいな映像が流れるのですが、まあ、それは、そういうものかと思っていると、それから始まる話が何とも奇妙です。

スーツをビシッと着たおじさんが家族の見送りを受けて出勤するところから始まります。

「お父さん、行ってらっしゃーい」

「しっかりね〜」

と見送りを受けるお父さんは、一軒家を出て、家族に手をふり道を歩いてゆきます。

すると行き先には、キラキラ光るリムジンがあり、背の高い妙齢の女性が待っています。

ためらいなく後部座席に乗り込むお父さん。

「今日のアポは何件だ?」

「9件です、そこに最初のアポのファイルがあります」

ファイルを見つめるお父さんの左手にあるのは化粧台。鏡をのぞきこみ化粧を始めるお父さん。

次のシーンでは、腰が半分まで曲がった老女の格好をして橋の上で待ち行く人々に空き缶をかざして施しを求めるお父さんの姿が。

映画は終始そのうようにして進みます。

次の場面では、ノートルダムのセムシ男みたいな格好になってパリの墓場を荒らているかと思うと、モーションキャプチャーを撮るための全身タイツとセンサーをつけてクンフーの真似事をしたり、思春期の女の子を持つ父親になったり、なんたり。

一切説明がないので、見ているこっちには何のことだかさっぱりわかりません。

でも、見て行くうちに、これは、この人は役者か何かではないかという事がわかってきます。

みたところ、これは、現代のヨーロッパみたいに見えるけどそうではない。この人は未来世界の役者のようなもので、カメラはない、あるいは見えないけど誰かの指示の元に何らかの役割を演じて、何処かにあるカメラがそれを捉えているのではないかという印象が浮かんできます。

お父さんが演じている役の一つ一つがとても丁寧に作られていて、それぞれのドラマに驚嘆しつつも、フーム、と感心して見ていると、最後にビックリする結末が待っていました。

え、そこまで?!

てことは……何なんだ!!!

足元をすくわれました。文字通り。