凱風舎
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「往年の名盤」 勝田正人さん

 

 

 

昨日は、Bach の誕生日でした。
間違いないか調べたら、正しくはユリウス暦の3月21日でした。
お祝いに物置の箱の中から出してきたのは、今日では目にする事も無いLPレコードです。
縦横ともに31㎝正方形の、美しく、荘重なデザインです。
カール・リヒターの名高き名演です。

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 おたよりありがとうございます。

 「マタイ受難曲」ですね。

 もちろん、わたしがバッハについて語ればおこがましい。
 かわりに、長田弘さんの「音楽」という詩を載せさせてもらいます。

 

 

 静かさをまなばなければいけない。
 聴くことをまなばなければならない。
 よい時間でないなら、人生は何だろう?

 

 時間こそ神のいちばん貴い贈物。
 老ヨハン・セバスチャン・バッハは言った。
 ほんの一瞬も無駄にしてはいけない。

 

 夜おそくまで、蠟燭の光の下で仕事をした。
 心の中の音楽に聴き入って。
 魂の音を、五線譜に書き写す仕事。

 

 老ヨハン・セバスチャン・バッハにとって
 音楽は労働だった。芸術ではなかった。
 生きるというただ一つの主題を持つ労働だ。

 

 充実でないなら、音楽は何だろう?
 こだまをのこして、沈黙のなかに消え沈む。
 よい音楽はよく生きられた人生にひとしい。

 

 仕事のあまり失明したが、悔やまなかった。
 老ヨハン・セバスチャン・バッハは
 ただ静かな微笑をのこして、死んだ。

 

    J・S・バッハ 〈一六八五 ― 一七五〇)

                                      すてぱん