アベノミクスという船
「もっと良いものが良いものの敵である」
― ショウペンハウアー「幸福について」(橋本文夫 訳) ―
今朝の朝日新聞に一橋大大学院教授の斉藤誠という人のインタビュー記事が載っていた。
斉藤氏はマクロ経済学、金融理論の専門家なのだそうだ。
今回政府の求めに応じて日本銀行が掲げた2%の物価上昇率ですが、市場は中長期にも実現するとはまともに信じていません。
みんなアベノミクスと命名された船に乗っていて、船長は景気のいいことを言っているが、だれも大海原に出るつもりはない。
実は湾の中をぐるぐる回っていればよいと思っている
ヘンだなあ、だあれも信じていないことを、みんな信じているふりをして、「いいことだ、いいことだ」って言ってる。
でも、思えば日本って国はいつだってそうだったみたいだなあ。
何かスローガンが決まると、本当はだあれも信じていないのに、そうだそうだ、ってみんなで言う。
古くは「八紘一宇」「大東亜共栄圏」、ついこの間は「郵政民営化」「構造改革」!
そして気が付いたら「大海原」へ出てしまっていた。
では、なんで誰も信じていないのか。
なぜ「大海原」に出たくないのか。
なぜなら理論的には、物価が2%上昇すると金利は3%ぐらいになる。
賃金も3,4%ぐらい上がるでしょう。
そうなれば企業のコストは膨らむし、国際価格が急落して国家財政も、国債を大量に抱える銀行も困る。
雇用に影響が出て労組も困る。
そんな姿を誰も望んでいません。
うーん、なんだかみんなアベノミクスで景気は回復するし、賃金も上昇するし、みたいに思ってるみたいなのになあ。
その期待には最終的に反してしまうと思います。
エネルギー、食糧の価格が上昇しているところに円安が進めば、ガソリンや灯油、野菜の値段がさらに上がる。
給与明細の額が増えても必需品価格がもっと上がれば暮らし向きは悪くなります。
おやおや。
株高や輸出回復で勝ち組が出ても、一方で負け組も出る。
小泉構造改革で問題になった『格差』がもっと顕著になる可能性があります。
円安一辺倒でやっていいのかどうか。
うーん、そうだよなあ。
私は経済のことはほとんどなんにもわからないのだが、格差が広がる予感だけはする。
うーん。
そもそもデフレなんてのは日銀のせいでもなんでもないそうだ。
2008年からリーマンショックまで数年間のデフレの要因は日本経済の国際競争力が弱くなったからです。
斉藤氏はこうおっしゃる。
で、
中国などの新興国が急成長しているのに、日本がこれだけ高い生活水準の経済を保とうと思ったら、それに見合う労働の質が必要。
なるほど。
だから、と斉藤氏は次のように言っておられる。
バブル前の貧しい日本とバブル後のバージョンアップした日本では、若い人に求められることが違う。
こんな賃金の高い国の労働者が韓国や中国と同じことをやっていたらだめ。
一人ひとりがきっちりトレーニングしないといけない。
そこは掛け値なしにしんどいので、みな目をそらしています。
いやはや、若い人はたいへんだなあ。
私も、子どもたちの尻を叩かねばならないらしい。
けれども、グローバル化ということは実はそういうことなんだろうな。
でもまあ、若者が必死に勉強し鍛えることは大事なことだ。
けれど、グローバル化に輪をかけることになるTTPへの参加まであの安倍氏に一任しようというのだもの、若者のみならずおっさんもおばちゃんも日本中のみんながシャカリキにならなければならない時代がすぐそこにやってきてるんだろうなあ。
気が付いたら血筋以外あとは何も取り柄のない船長の下で、思いがけず荒れ狂う「大海原」に出てしまうかもしれないのだから。
それにしても、日本の国会に「野党」というのはいなくなったのかしら。
なんだか大政翼賛会時代の政治を見てるみたいだ。
信じていないことは信じていないという者がいない国はただ舵をなくして漂流するだけだろうに。
今、私たちは「もっと良いものがあるはずだ」なんて思って、いま持っている良いものを手放す愚をおかしてはいないか。