柱時計
売りにゆく柱時計が不意に鳴る横抱きにして枯野ゆくとき
寺山修司
柱時計はねじを巻かねばならなかった。
毎朝そうやってねじを巻くことで各家々は世間と時間を合わせた。
それは大切な儀式だった。
たとえ意識はしていなくても。
その柱時計を売りに行く。
貧しさのゆえ?
そうではあるまい。
青年が横抱きに柱時計を抱えていくとき、なぜそこは枯野でなければならなかったか。
不意に脇の下にじかに響いたボーンというくぐもった鐘の響きは彼になんと聞こえたか。
出発の鐘であるよりはむしろ警鐘あるいは弔鐘として身に響いたろう。
にもかかわらず彼は柱時計を売りに行かねばならなかった。
そうやって家から時計をなくした青年も、気がつけば今はあらゆる〈時報〉に取り巻かれている。