子煩悩な狛犬
家から歩いて五分足らずのところに 根神社 という名前の小さな神社がある。
なぜ、このような名前なのか由来も何も書いてないのでさっぱりわからないが、きっぱり
根神社
それっきりである。
いつもは社殿は閉じているのだが、さすがに正月だけあって、注連縄を張った社殿が開いている。
どれどれ、と上がってみると、奥に幣を二流れ垂らした御神体が一柱立っている。
ほかに何もない。
だれもいない。
どこまでもキッパリした根神社である。
社殿の向かって右手前の方は、いかにも、
やれやれこのごろ道路に削られてしまいました
みたいにすっぱり崖になっていて、その狭くなった社域に一組狛犬が立っている。
よく見るとこれがなかなか味わい深い。
向かって右の奴は笑って子どもの頭を撫でている。
どれどれと左の奴を見ると
こっちは口は閉じているがそれでも笑いをかみ殺しているみたいに歯を見せながら子どものお尻を撫でている。
どちらもなかなか子煩悩な狛犬夫妻である。
この二頭を並んだ様子はこんな感じである。
(狭くて正面から撮れない)
それにしても、子連れの狛犬、なんてのはあんまり見たことがない。
金沢あたりの神社の狛犬は、番犬のように両前脚を突っ張ってたっているか、キックオフ前のサッカーのレフリーみたいにボール(玉)を片脚で押さえている、というスタイルであったような気がする。
あるいは後ろ脚を上げて逆立ちしてるようなのもあった。
(思えばこれも相当ヘンだなあ!)
台石の裏に回ってみると奉納の日が彫られている。
昭和十二年二月吉日
ふーんと思いながら階段を降りて振り返ると、この狛犬置かれた場所に以下のような碑が建っていた。
一心千勝講。
そうであったか、と思った。
昭和十二年と言えば1937年。
盧溝橋事件から日中戦争が始まった年である。
1932年には「五・一五事件」1936年には「二・二六事件」起きている。
戦時の色は濃い。
だとすれば、ひょっとしたら、子犬の頭を撫で、あるいはお尻を撫でているこの狛犬たちは、息子たちを戦地に送り出すこの地の親たちのせつない思いの表れであったのかもしれない、などと思ったりした。
(実はこの根神社にはもう一組狛犬がいるのだが、その話はいずれ)