栗焼き
絵所を栗焼く人に尋ねけり
夏目漱石
勝田氏はすごいなあ。
美術館に二日通う、なんて私にはとてもできない。
すくなくとも、この咳が止まらないうちは。
ところで、引用の漱石の俳句にある「絵所」というのは「美術館」のことです。
これは漱石英国留学中の句ですから、この「絵所」っていうのは、たぶん勝田氏が二日通われたという《ナショナル・ギャラリー》なのではないかしら。
そこへゆく道を、道端の焼き栗売りの親爺に尋ねた、って句です。
だからどうした、ってことでもないですけどね。
まあ、この頃の漱石さん
僕は英語研究のために留学を命ぜられたようなものの二年間おったって到底話す事などは満足には出来ないよ。第一先方の言う事が確(しか)とわからないからな。
なんて手紙を友人に書き送ってますからね。
自分の英語に自信がない。
で、そこらの道を歩いている教養ありげな紳士にではなく、焼き栗屋の親爺に道を尋ねた、ってわけです。
それがなんだか可笑しい。
なんとなく俳味と言うか、ペーソスというか・・・。
たぶん、焼き栗を買ったついでみたいな顔で道を聞いたんでしょうな。
何も買わずにいきなり道を尋くなんてできない。
そんなエラソーなこと当時の漱石さんにはできない。
いずれにしろ、かの漱石さんですら、現地の英語を聞きとるなんてできなかったんだ、と思えば、なんだかほっとしますな。
というわけで、地図や検索で道はわかっていたかもしれないけれど、できれば【凱風舎文化部ロンドン支部長】たるもの、ロンドンに来た以上、「絵所」へ行くときは是非「栗焼く人」に道を尋ねてもらいたかったなあ、なんて思ったわけです。
もっとも、焼き栗屋の屋台、なんてのは冬にならないと街に出て来ないものなんでしょうが。