凱風舎
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金もくせい

 

 

 雨あがりの夕闇
 もらいそこねた小さな言葉に
 つまずきながら歩いていた
 わたしをひきとめたのは
 おまえだった
 ただひたすら累々と
 雨あがりの道を埋めてにおいたつ
 おまえだった
 

 

   ― 征矢泰子 「金もくせい」 ―

 

 

 こんな詩を読むと
 言いそびれた言葉
 もらいそこねた言葉
 そんな言葉につまづいて歩いた日が
 たしかに
 わたしにもあったような。

 忘れてしまって
 いまではそれがどんな言葉だったのか
 そんなことさえもおぼえてはいないのだけれど。

 今日は
 秋空に
 小さな金色の花のやさしいにおいが流れる日。
 こんな日は
 いまはもうどこかに失くしてしまった
 言いそびれた言葉
 もらいそこねた言葉
 そんな言葉が
 たしかに
 わたしにも あったような。