凱風舎
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どゆこと?

 

 

   前の奴だけデカイ

 

  - 宮澤章夫 「軽井沢で牛乳を飲む」-

 

 

 夏休み前に、試験勉強にやって来た高校生の国語の教科書を見ていたら、宮沢章夫の文章が載っていた。
  宮沢章夫を載せるなんて、高校の教科書もサバケタものだ
と、もちろん、おもしろがって読んだ。
 書いてあったことのおおかたは忘れたが、中に今日引用した句が載っていたのである。
 私、大笑いしたので覚えている。
 なんでも、彼が軽井沢あたりで、
  「尾崎放哉の怪作  墓の裏に廻る  みたいな自由律俳句を作ろう!」
とかなんとかいうようなワークショップをやったときに、参加者の一人が作った句、がこれなんだそうである。
 で、これが歌われた状況は、と言うと、「映画館の中」なのだそうだ。

    前の奴だけデカイ

 なるほど、映画館でたしかにこれはコマル。
 呪われている。
 なにせ、この頃の映画館の席は「予約席」である。
 動けない。

 

 ・・・などいうことを思い出したのは、今日私も映画館に行ったからだ。
 そして、私もコマッタからだ。
 観に行ったのは、もちろん、「桐島、部活やめるってよ」。
 大石君があんなに推しているのだ。
 観ないわけにはいかない。
 で、おもしろかった中身の話は次回。
 今日はコマッタ話。

 今日は八時半に家を出て、渋谷に10時前に着いて映画館に入った。
 渋谷の駅は混んでいるが、映画館の中は空いている。
 私が、だあれもまわりにいない席を選んで開演を待っていると、席はいっぱいあるはずなのに、なぜだか私の隣の席をわざわざ選んで、座ろうとする奴がいる。
 どゆこと? 
 周り、どこもガラガラじゃないか!

 見れば頭に毛糸の帽子をかぶった若いやつである。
 わからん。
 何を考えてるのか。

  わからないのがとなり

 私、自由律俳句になってしまう。
 そのうえ、見れば、その男、朝から小さな瓶ビールを手にしている。
 で、こいつ、座ったとたん、脚を広げるのである。
 それが私の脚に当たる。
 ど、ど、どゆこと?

 なにやら私、尖閣でいちゃもんをつけられてる日本みたいな気になって来る。
 日本は動けないが、私は動ける。
 私、席を横にずれた。
 二つ。

  席を二つずれる

 何もこんなことまで太字で書く必要はないが、なにせ今日の私は自由律俳句である。
 いわんや、席の移動のごときが自由律であること、当然である。 
 映画館はガラガラなのだ。
 「予約席?マラじゃよ!」
である。

 で、

  いつになく腰が軽い秋である

などと自分を褒めているうちに、映画が始まり、もちろん私、映画に集中してそんな男のことなんか忘れていたら、突然ガタンと音がして、その男立ち上がる。
 どうやらその男、トイレに行くらしい。

  朝からのビール効いている

であろうか。
 彼が戻って来たのは気づかなかったが、しばらくすると今度はなにやら奇妙な低音が断続的に聞えてくる。
 見ると、呆れたことにそいつ、鼾をかいて眠ってしまっている。
 うーん。

   ふたつずれてもイビキ

 それにしても、いったい、この男は何しにこの映画館にやって来たのであろう?
 うーん。

 外に出ると、渋谷は

 曇った坂道がなだらかに秋をくだってゆく

といった十月でした。