凱風舎
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金環蝕

 

 ぼくら 湖であり樹木であり

 芝生の上の木漏れ日であり

 木漏れ日のおどるおまえの髪の段丘である

 ぼくら

 

 

 ― 大岡信 「春のために」 ―

 

 空はもっと暗くなるのかと思っていた。
 けれども、外縁をわずかに残したばかりの太陽は、それを隠した月よりも明るく、変わらず地上を照らしていた。
 緑濃い木々たちの間を洩れる光は地上に美しい弧を連ねた白い影まで描いて・・・。

 ゆくりなく思い出した大岡信の詩。
 若者ならば皆が見上げた天にある金のリングよりも、今日、自分だけが目にした、恋人の髪に揺れていたいくつもの光の輪をずっと記憶にとどめるかもしれない。