木の花
野原に出て坐ってゐると、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが、
たしかな約束でもしたやうに、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが、
野原に出て坐ってゐると、
私はあなたを待つてゐる。
さうして日影は移るのだが――
― 三好達治 「草の上」 ―
暖かく、よいお天気でした。
今日私の部屋の窓は一日開いていました。
それだけで気分は明るくなります。
市役所脇の遊歩道はすっかり葉桜の季節です。
そんな緑の中花をつけているのは八重桜。
地面にはタンポポが黄色い花を咲かせています。
まあるく綿毛をつけているというのでイバッテ立ち上がっている茎もあります。
綿毛をつけたタンポポの茎が身を起こして立ち上がるのは、遠くに種を飛ばすためです。
明るく日の射す舗道へ出ると街路樹として植えられたヤマボウシが白い花をつけていました。
郵便局の通りに植えられたカリンたちも薄紅の可憐な花をつけています。
公園の藤棚のフジもいつの間にやらまだ蕾ばかりの小さなを花穂を垂れています。
そうか、四月は、なるほど、木に花咲く季節、なんだなあ。
木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな
と前田夕暮が歌った四月は、咲き満ちる桜の花の季節ではなく、実は、葉桜の今頃の季節だったのだという気がします。
初々しい緑の中に可憐に花つける木々たちこそ新妻にはふさわしい。
それにしても、なかなかよい歌だなあ。
他人事ながら、なんだかニコニコしてくる。
待つべきよきことがあるというのはなんとよいことだろう!
「なかなか遠くもあるかな」なんて思えることを持てることを、きっと幸せというんだろうな。
一方、三好達治の方はどうやら「永遠に来ない人」を待っているようですが、今日のようなお天気の草の上なら、それもまた、ワルクナイ、かもしれません。
もっとも、
それはさうではないのだが、
と、いわれそうですが・・・。