聖母子座
はじめはオリオン星座全体を描くつもりだった。ところが、星の数があまりにも多いのと時間の制約のために、この企ては次の機会に見送ることにした。実際既知の星のまわり一、二度の範囲内に、五〇〇以上の星が散在いている。だから昔から記録されている帯の三つの星と剣の六つの星に、最近発見された、それに隣接する八〇の星を付け加えた。そしてその間隔もできるだけ正確に描こうとつとめた。
―ガリレオ・ガリレイ「星界の報告」 (山田慶児・谷泰 訳)―
ガリレオは自らの手で作った望遠鏡で見た月や星の世界を絵入りで報告している。
見えなかったものが見えたその興奮と、にもかかわらずそれを正確に観察し記録し、そこから推論を押し進める彼のありようは、なかなかスゴイ。(木星の衛星発見したところなんかはほんとうにワクワクする)
けれど、私はこのガリレオの報告よりもっとびっくりさせる報告を最近目にしたのだ。
なんと、ニュージーランドではオリオン座はさかさまに見えるらしい!
(え、そんなの知ってた?
スミマセン。
ペコペコ)
でも、私は先日届いた恵理さんの手紙を読んで初めて知ったのだ。
暖かい空気の中で逆立ちしたオリオンは、ずいぶんのーてんきな狩人のようで、あれじゃあタヌキも取れないだろう・・・といった様子です。
え、そんなこと、あるのか!
と、一瞬混乱したけれど、頭の中でどんどんどんどん地球を南下してゆき、赤道あたりで頭上に来たオリオンをそのまま置き去りにし、さらにどんどんどんどんさらに南下していくと、なるほどオリオンは北の空に見えることになり、それは確かにさかさまにひっくり返って見えるなあ、と納得した。
南半球には、たとえばオーストラリアなんかには知人でもたくさんの人が行ったはずなのに、だあれもそんなこと教えてくれなかった。
みんな星空なんて見ないのかなあ。
南十字星の話もカノープスの話も聞いたことがない。
ところで、恵理さんは今月には第三子が生まれる予定だとか。
北半球ではオリオンの帯に当たる三つ星の下にある小三つ星(ガリレオは六つの星と書いているけど)は、彼が差している短剣ということになっているけれど、そして、日本ではスサノオの十拳(とつか)の剣(つるぎ)が三つ星で、小三つ星はその剣の下げ緒であるという説があるけれど(北沢方邦『古事記の宇宙論』)、南半球だと、あの小三つ星はひょっとしたら、母親の胸に抱かれた幼子のように見えるんじゃないかしら。
もしそうなら、私がニュ-ジーランドに住んでいたら《聖母子座》という名前をつけるのに。
元気な赤ちゃんが生まれるといいな。