凱風舎
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んぱっ!

 

  惜しみなく穿かれた靴はおんぼろになっちまった
  くたびれもせず悲しくもなかったなんて
  いちどもダンスをしなかった連中の云いぐさだ

 

  ― ブレヒト 「くたびれた反逆者たちのうた」 ―

 

 こないだの雨の日タバコを買いに外に出たら靴下が濡れた。
 なんだろう、と左の靴の裏を見たら、かかとのところに穴が開いていた。 
 なんだか笑ってしまった。
 うまく言えないけれど、とても愉快な気分だった。 

 思い出していたのは、とおいとおい昔、ノートに書き写したブレヒトの詩。
 訳者がだれかはわからないが、これを書き写した頃、私は自分のことを、くたびれて悲しいと思っていたのだろうか。
 それとも、自分を、いちども「ダンス」をしたことがない男だ、と嘆いてこれを写したのだろうか。
 いずれにしろ、この詩は当時の私の琴線のどこかに触れたらしい。

 それにしても、ダンスなんていちどもしたことがなくったって靴はおんぼろになる!
 穿き続けていれば穴も開く。
 歩き続けていれば、くたびれもするし悲しくもなる。
 それでいいのだ。
 そして、それはなかなか愉快なことなのだ。
 どうせ穴があくのならと「ダンス」をした方がいいのかどうか、私にはわからないが。

 

 ダンス、と言えば、昔、勝田氏が自分が作ったという回文を教えてくれたことがありました。

  パンダのダンスはすんだのだ。んぱ!

というのがそれです。
 本人も冗談めかしていましたし、聞いた私もそのバカバカしさに大笑いしたのですが、実を言うと、私はこの回文をいまだに《傑作》として愛好しているのです。
 一番最後の 
   んぱっ!
というのが、いかにも付け足しみたいに見えるけれど、これが「パンダのダンス」というものがいかにくだらないものであったかを笑い飛ばすようにできていて、それからしばらくしてバブルがはじけたころ、私はこの句をつぶやいて笑ったものでした。
 できれば、橋下大阪市長の「君が代騒動」(いったい、校長が職員が「君が代」を歌っているかどうかと、その口もとを見つめるって何事やろ!)にも
   んぱっ!
と、言える日が早く来てほしいものです。

  
 ところで高校生たちが来るのも今日でおしまい。
 明日は街に新しい靴を買いに行くつもりです。