春なのに
堪え忍べ、わが心よ、
現在の難儀もいつの日かよい思い出になるであろう、
― 『ギリシア・ローマ名言集』 (柳沼重剛 編)
【ホメロス 『オデュッセイア』 (松平千秋 訳)】 ―
今日は春めいた暖かな一日。
公立高校前期入試の合格発表日。
いきなり
「先生、落ちたよー!」
などと大声で部屋に入って来る子もいて、塾の生徒は合格した子と落ちた子が半々。
それぞれの子の受験の点数は聞いていたので、その結果に驚きはないが、あと十日、落ちた子には春はお預けということだ。
1・2年生は今週末が学年末試験。
こちらはずいぶん気楽なもので、試験前だというのに、教科書で『論語』を習ったというので、私の本棚からそいつを引っ張り出して読んでる豪の者もいる。
「おもしろいか」
と聞くと
「うん。おもしろい!」
とこたえるのは、なかなか見所がある。
これは、いつぞやの試験中にドアのところでジャンプして頭にケガをしたあの男の子だ。
どだい男の子などというものは、どうしようもないもので、高校生の頃、古代ローマあたりが範囲だった世界史の試験の前夜に、シェークスピアの『ジュリアス・シーザー』を読んで《試験勉強》と称していた友人もいたくらいだから、試験前に余計な本を読むのもまあ驚かないが、一応塾なので、「学而篇」を読み終わったところでやめさせて、図形の証明問題を解かせることにする。
この子、本を読むのは大好きだが、証明問題、すこし苦手だ。
とまあ、そんな一日。
塾の先生は、も一度チャンスがあるときは、生徒が落ちても、まるで、そんなのありふれた当り前のこと、みたいな顔をしているのも大事な仕事です。
堪え忍べ、汝が心よ!
そう心で呼び掛けるしかありません。