朝三暮四
ぺトラシェフスキイ、モンペリ、グリゴリエフの三人が、先ず柱に縛され、十二人の兵士が銃を上げた時、赦命のハンカチが翻った。
- 小林秀雄 「ドストエフスキイの生活」 ―
二日前に千葉県の公立高校の前期入試が終わったのだが、全然終わったような気がしない。
そう思っているのは私ではなく、子どもたちだ。
だから、今日もみんなまじめに塾に来ている。
明日も朝からやって来るだろう。
入試が終わった気がしないのは、これが「前期」の試験だからで、千葉の公立高校はこの試験で定員の約6割から8割の生徒の合格を決め、残りを「後期」の試験でとる、ということをやる。
この結果、本来なら1,18倍の倍率のはずが、前期の倍率は1,83倍になる。
おおまかに言って、本来は9人に一人しか落ちないものが、9人に4人は落ちることになる。
本来合格をするはずの子どもにまで無駄に落第の悲哀を味わわせて何がおもしろいのか。
私には、全くその意味がわからない。
皆、自分の実力に見合った高校を選んで試験を受けているのだから、皆、その実力なりの成績を取っている。
これが1,13倍なら、実力が出せれば、なんとなく合格しそうだと思うが、半分近くが落ちるとなれば、皆、やっぱり不安に思うのが人情というものだ。
というわけで、みんな、試験前よりまじめな顔で問題集を解いている。
かわいそうに。
入試なんぞというものは、試験が終われば、合格するにしろ落第するにしろ、とりあえず勉強からは解放されるべきものだ。
千葉の教育委員会は、これを「チャンスが二度ある入試制度」などと自賛しているのだろうか。
ドストエフスキイは政治犯(思想犯)として、他の21人とともに死刑の宣告を受け、ある朝処刑されるべく刑場に引かれたが、刑が執行される直前に皇帝の恩赦で減刑されて四年間のシベリア送りになった。
皇帝ニコライは自分の慈悲を示すためだけに、前もって減刑は決まっていたのに、わざわざ直前にそうしたらしい。
柱に縛られていたうちの一人グレゴリエフは発狂したそうである。
むろん、皇帝はアホウである。
たぶんは同じく千葉県の教育委員会も。