凱風舎
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 鳴かずなりしすず虫放ちわが童 庭見つめゐぬ小腰かがめて

                       窪田空穂

 

 11月とは思えぬ暖かさだ。
 霜月、などとはとても言えない。
 霜が降りるどころか夜になって窓を開けていても一向平気だ。
 そんな11月。
 けれどこんなに暖かなのにもう虫の声はしない。
 わたしはずっと鳴く虫というものは寒くなるから鳴かなくなり死ぬのだと思っていたが、本当はそうではないらしい。
 むしろその生に与えられた日数を過ぎれば死んでしまうものなのだ。
 そういえば、セミは暑い真夏に死ぬ。
 虫にとって気温は必要条件かもしれないが十分条件ではない。
 寿命なのだ。

 夜が更けて煙草を買いに外に出たら霧のような細かな雨が降っている。
 いつもの町がぼうっと紗をかけたようだ。