凱風舎
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あ、まなつ!

 

 

 

  筒型から出発した中が空洞の埴輪は、秦や漢の墳墓に埋められた土製の武将俑(よう)に比べると写実性に乏しく造形的には軽いが、目や口をくりぬいてこしらえた顔立ちには素朴でヒューマンな感情があらわれている。(中略)。巫女の顔立ちなど、まるで少女のように愛くるしい。

 

    ― 辻惟雄 『日本美術の歴史』 ―

  

 この前の土曜日の夕方、真夏君が来た。
 にこにこ笑っている。
 真夏君は名前は真夏だけど、いつでも春みたい。
 相変わらずふっくらしたまあるい顔は童女のようだ。
 でも、ちゃんと目の周りなんかお化粧をしている。
 「おねえさんだなぁ」
と言う
 「でしょ」
と笑っている。
 二十歳。
 来年短大を卒業するんだが、就職が決まったから報告に来たのだという。
 まずはめでたい。
 私は「就職活動」なんてしたこともないからよくわからないがきっとたいへんだったんだろうな。
 みんなそうやって私より大人になってゆくんだな。
 なのに、わたしは相変わらず、言ってしまえば学生気質のままだ。 
 二十歳を過ぎれば、生徒たちはみんな、わたしを追い抜いてゆく。

 そういえば、勝田氏に言わせると、わたしは一度も「営業活動」をしたことない男だそうである。
 そして、そんな男は
   まあ、《ダメ》としたもの
だそうである。
 言われてみればたしかにそうで、わたしは「自分を売り込む」就職活動も「物を売り込む」営業活動もしたことがない。
 だいたい若い頃のアルバイトにしてからが、友人がやっているところに、その紹介でもぐりこむという安易な方法しか取ったことがない。
 塾の宣伝もしない。
 自ら自分の運命を開くなんてことをしないんだな。
 ひとまかせの運まかせ。
 要はチャレンジ精神がまったくない。
 それを培わないままに六〇年生きてきた。
 たしかにこれはダメな男だな。

 でも、それは、わたしが生きていた時代がこんなダメな男でも生きられる時代だったということでもあるんじゃないかと思ったりする。
 それにひきかえ、生徒たちが生きている今の時代は、若者が
   ダメではダメ!
な時代になったのかもしれないな。
 すくなくとも、みんな、そう思い込まされてる時代。
 そんな気がする。
 学生たちの雰囲気はわたしたちの頃よりずっと息苦しいような気がする。
 ダメではダメ、は息苦しいな。
 まあ、ほんとは昔からそうだったのに、能天気なわたしが気づかずにいただけのような気もするが・・・。

 ところで、パソコンでヤギコの写真を見ていた真夏君が
 「あ、まなつ、だ!」
と叫ぶから、何かと思ったらヤギコが栗を抱えている写真。
 「ほらッ」
 見ればヤギコが敷いている「糖果子」の袋には

 あまなつ 

という字が。
 よい土曜日!
 お酒がおいしい夜でした。