凱風舎
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I am a boy.

 

 未来は方向であり、過去は蓄積である。時間というものに方向が不可欠だとするならば、生命にとって唯一の時間は未来への前進であって、過去は時間ではない。

 

    ― 木村敏 『あいだ』 ―

 

 俊ちゃんに赤ちゃんが生まれました。
 赤ちゃんは、はなはだ元気に泣いていました。
 

 こないだやってきた俊ちゃんがわたしのパソコンにSkypeというのをつないでくれたのですが、世間を知らぬわたしが
 「なんや、これ?」
と聞いたら、
 「テレビ電話みたいなものです。しかも、ただ!」
と教えてくれました。
 まあ、遠いハワイで生まれた赤ん坊が泣いているのをこんなところで見ることができるなどとは、いやはや、たいへんな時代になったものです。
 
 かつて人びとが持っていた「空間」とか「時間」とかいった概念が全く違ったものになっていくんですな。
 わたし、ほとんど茫然としてしまいました。
 もちろん、やがてわたしもこれに慣れて来るのでしょうが、それでもなにか、これがとてつもないことだけはわかりました。
 声が聞こえる、ということと、顔が見える、ということは全く次元が違う話なのですな。

 妙な話ですが、わたし、自分がなんだかあの世から話しているような気がしたんです。
 だから、もし自分があの世に行っても、顔を見ながらこうやって生きているだれかと話ができるような気にさえなってきたのです。
 実際、こちらから(というか、あの世から)話はできないのかもしれないけれど、今Skypeを見てるみたいに、あの世からはこっちのことが見えてるようなそんな気がしたのです。
 とても、とても、ヘンな気分です。
 たいへんな時代になったものです。

 そうそう、赤ちゃんのベッドには

   I am a boy.

って書かれてましたよ。
 俊ちゃんの三男です。
 まだ、名前は決まっていないらしいです。