凱風舎
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膝布団

 

    「いづら、猫は。こち率て来」

     (「どうしたの、猫ちゃんは。こっちにつれていらっしゃい」)

 

     ― 菅原孝標女 『更級日記』 (川村裕子編)―

 

 

 寒くなりました。
  ながながし夜をひとりかも寝む
  ころも片敷きひとりかも寝む
 と古人も嘆いた季節です。
 こんな季節、膝枕、と言えば、なにやらつやっぽくてなかなかよろしそうであるが、うちのヤギコさんがもっぱら愛好するのはわたしの膝布団。
 わたしが椅子に座ると、待ってました、とばかりに、わたしの太もものの上にひょいと跳び乗って自分の膝をたたむ。
 そして目をつむる。
 なにやら湯加減よろしき温泉につかる爺さまのごとし。
 色気も何もない。
 とはいえ、わたしの方も膝が温かいので文句はない。
  桐一葉落ちて天下の秋を知る
という洞察力の優れた方もおられるようですが、猫の温みをありがたがっているようで、はわたしの場合
  猫膝に来て我が身の秋を知る
とでも申しましょうか、猫のためにもわたしのためにも、そろそろホット・カーペットを敷かねばならぬ季節のようです。