ニ次会
あなたの笑い顔を
ふしぎなことに
今日は
覚えていました
― 井上陽水 「心もよう」 ―
朝、古墳公園に行ったらヒガンバナがそこここに群れて赤い花をつけていた。
10月2日。
あの年の10月2日も日曜日だった。
そして、京成の線路脇の土手にヒガンバナが咲いていたのだった。
その日朝早く塩出さんから電話があった。
そして、沈んだ声で、その前の日藤原君が亡くなったと伝えられたのだった。
あれから、もう6年になる。
「ニ次会ってあるじゃないですか」
その一年前、癌の転移がわかってそれが最後になる入院をする前、ぼくのところにやって来た藤原君は言ったのだった。
「自分がこんな年で死んでしまうってっていうのは、なんか、みんな、ニ次会に出かけるのに、自分一人だけ、帰らなくちゃいけない、みたいな、そんな気分なんですよ。
ニ次会ってどんなかなあ、きっと楽しいんだろうな・・・って。
今の気分は、なんか、そんな感じかなぁ・・・」
そんなことを言う24歳の若者にぼくは何も言う言葉がなかった。
ぼくの方がかえって顔をゆがめながら、ただ彼の言葉を聞いていただけだった。
あれから過ごした年月の中でぼくは彼に語る言葉を手にしたのかどうか。
ただ今日は、なぜか、あの日、通夜の会場に飾られていた彼の写真の笑顔をはっきりと思い出せる。
それは、いいことなのだとぼくは思う。
その人がだれであれ、その人の笑顔を思い出せるのはいいことにきまっている。
ところで、あの日一緒に彼のお通夜に参列した大石君、塩出さん。
あれからのこの6年のあなたたちの「ニ次会」は楽しかったですか?
そして、いまも楽しく生きていますか?
もしよかったら、今日はちょっと、遠くの彼に呼び掛けてみて、そんなことなんか、笑いながら話してみてください。