凱風舎
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台風

 

  野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。

 

    ― 清少納言 『枕草子』 (石田穣二 訳注) ―

 

 全く何年かぶりで雨戸を閉めていました。
 なかなか大した台風でした。
 風はうなり、時にさけび、部屋が揺れました。
 けれど今はもう何事もなかったかのように鳴く虫の声が静かに聞こえています。
 私もまた部屋にいて何事もなかったのです。
 昨日のうちに生徒たちに今日の塾はお休みと伝え、雨戸を閉めた部屋にコーヒーを飲み本を読んでいました。

 ところがテレビを見ると東京のターミナルには人が溢れていました。
 台風進路予想は、前日から今日台風が関東にやって来ると告げていたのに、そして現に台風はそのように進んでいるとテレビは伝えているのに、たくさんの人が仕事を定時までやっていたらしい。
 そして、木が倒れるほどの、電車ですら運休した方がいいだろうと判断するほどの風の中を生身の人間が全身ずぶぬれになって道を歩いている。
 まあ、めったにない風雨の中を歩いてみるのもなかなかおもしろい体験かもしれないけれど、男の方はまだしもたくさんの女の人がこんな風雨の中を歩いているというのは異常だなあと思ってしまう。
 たぶん、こんなにもたくさんの女の人が、元の大軍が一夜にして壊滅したくらいの風が吹きすさぶ中、家の外に出ていなければならない時代なんて歴史上なかったにちがいありません。
 男女雇用機会均等法なんてものをつくっている社会とは女の人にちっともやさしくない社会だと思ってしまう。
 こんな都会に住んでいては女性が子供を産まなくなるのは当たり前です。
 女に男の真似をしろというのですもの。
 思うに、女の人は吹きつのる風に身をさらすより、風の音に一夜部屋にこもっていた翌朝、折れた枝や倒れ伏した草々を見て

   ああ、昨日の台風、やっぱりすごかったのねえ。

なんて、清少納言みたいに言うのがいいみたいな気がするなあ。