凱風舎
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ロリポップ

 

 転校生、海野藻屑があたしのクラスに乱入いや転入してきたのはその年の九月のたぶん三日とか四日とかそれぐらいだった。夏休みが終わって二学期が始まってすぐのだらだらにだらけた曇り空の朝。黒板に意外にも美しい文字であいつが書いた名前を見てあたしたちは「これはとんでもない名前だ」とごく普通の感想を持った。 

  

    ― 桜庭一樹 「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」 ―

 

 

 こないだ、銀座の画廊に高校時代の同級生の戸瀬氏の展覧会を見に行ったら、帰り際におみやげをもらった。
 そのかわいらしい袋には
   糖果子 あまなつ
と書いてあった。

 桜庭一樹に「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」という小説がある。
 弾丸でない〈糖果子〉はなかなかおいしかったが、弾丸たる〈砂糖菓子〉もなかなかすごい。

 引用したのはその冒頭の部分だが、この「とんでもない名前」の主人公は殺されるのだとその前に載せられている新聞記事によってすでにわれわれには予告されている。
 そんな小説。
 かなりおもしろく、かなり切ない。
 で、塾にやって来た、登場人物と同い年の中学生の女の子に渡したら、その子もおもしろがって読んでくれたらしいが
 「でも、終わり方がよくわからなかった」
と言われた。
 切なくなかったらしい。
 「よくわからない」と言われて私はよくわからなくなった。
 十三歳の女の子がどんな風に物語を読むものなのかが。
 同じ殺されるのでも、意味もなく殺される山田悠介みたいな小説の方が「スゴイ」と思ってしまうらしい。 
 それに、たぶん彼女は「砂糖菓子の弾丸」が指しているものがよくわからなかったのだろう。
 で、そのことについて書こうかと思ったが、そうなると、どうもいつもの癖で全面展開をすることになって、これは長くなるし、それに、読んでいない人にそんなことを長々書いたらバカみたいだし、とりあえず、ひまなら読んでみてください。
 角川文庫。とてもすてきな表紙の200ページ足らずの本。 472円です 。
 
 ところで、あなたはいつからコーヒーをブラックで飲むようになりましたか。