コワイ話
恐怖は精神の無能力から生じるものであり、したがって理性にとっては無用である。
― スピノザ 『エチカ』 (畠中尚志 訳) ―
諸兄諸姉は山田悠介氏をご存知だろうか。
私は知りませんでした。
こないだ中学三年生が休み時間、コワイ話というのを話しているので、ニヤニヤ笑って聞いていたら、
「せんせ、コワイ話知ってる?」
と話をふられてしまいました。
で、私は
「わしが知っとる一番オトロシイ話はな」
と、もったいつけて半村良の『箪笥』の話をしたんですが、私の話し方がへたくそだったのか、ちっともこわがってくれない。
それどころか、
「なに、それ。」
と、みんなにゲラゲラ笑われてしまった。
身振りが過剰だったらしい。
で、みんなが言うには、それよりずっとコワイ話を書く山田悠介という人がいて、
「ともかくスゴイよ、せんせ。
明日持ってくるから、読んでみてよ」
と、和紗ちゃんが言うわけです。
「いやだよ」
私、断固拒否しました。
「あのな、おまえら。もしもやな、小学生がやな、おまえらに
『「ドラえもん」っていう漫画、すごくおもしろいから、読んでよ』
と言うたからと言うて、おまえら読むかぁ」
我ながら、なかなかいいたとえだ、と思ったんですが
「《ドラえもん》なら、俺、読むな」
とは隆文君。
そうですか。
というわけで、私、読むことになりました。
山田悠介 『ドアD』。
えーとですね、人がたくさん死ぬ話です。
何の意味もなく次々と。
コワイか、と聞かれれば、おじさん、ちっとも怖くないです。
すかすか。
でも、和紗ちゃんにそう言うと
「エーッ、これからどうなるんだろうって、ドキドキしませんでしたぁ?」
と言われてしまいました.
(あのね、おじさんになるというのはいろんなドキドキがなくなるってことんだよ。)
うーん、でも、こういうのが世の中で一番コワイ話だという年代ってあるんですね、きっと。
人がどんどん殺される話。
なぜなんでしょうね、子どもは怖がりのくせに、コワイ話が好きです。
『箪笥』はちっとも怖がらないくせにね。
で、私言ったんです
「こんなのは、ちっとも怖くない。
でも、今日、うちに帰ったら、おまえらのかあちゃんと妹がタンスの上に正座しとったら、おまえら、どうする。
『お帰りぃ。早かったのねえ』
なんていつもとおんなじように言うたら・・・」
みんな、怖がりました。
理性には無用のことだったかもしれませんが・・・。