カリコリ
彼らは蝉やケルコペまで「口開け」として食べていた。アリストパネスの『アナギュロス』に
「おお、何と、私は食べたいことか、蝉を、
あるいはケルコペを。細い、しなやかな
葦で追い立てて。」
ケルコペというのは、プラトンの甥のスペウシッポスが『類似物』の中で比べているように、蝉に似た動物だ。
― アテナイオス 『食卓の賢人たち』 (柳沼重剛 編訳)―
ヤギコはセミが好きである。
この頃は毎晩一匹ずつ咥えては帰って来る。
鳴かないメスのセミはともかく、攫まえたのがオスのセミで、そいつが自分の口に咥えられて大きな声でわめきまくっていても平気である。
相当の音量なのに、私の顔を見るとそいつを咥えたまま自分まで自慢気に鳴いてみせる。
「バーカ」
と言っても知らん顔してそのまま机の下に入り込む。
そして、自慢してたくせになぜか隠れてそれを食べる。
食べ終わるのに3分とかからない。
そんなにはやく食べられるものなら、わざわざ部屋に持ち込まなくても、と思うが、5分もあれば食べられる牛丼だってわざわざ弁当にしてもらってる人もいるんだから、家がいいのかもしれない。
食べ終わった後、茶色や透明の翅が残っていることもあれば、何も残さず丸ごと全部食べることもある。
何がうまいんだかわからないが、毎朝カップに入ったコーヒーの湯気を嗅ぎに来る彼女も同じことを私に思っているのだろう。
それに今日の引用の本によれば、古代アテナイの人は「食欲を増進させる食べ物」として蝉を食べていたということだしね。
ただ、これには味付けも料理法も書いてはないのだが、蝉で食欲は湧きそうもないけどなあ。
翅ごと食べたのかしら?
追い立てて
と、書いてあるから、ひょっとしたヤギコみたいに生きたままを食べたのかしら?
ヤギコはコガネムシも食べる。
こいつはセミのように遠征して捕獲するのではなく、灯りに魅かれて部屋に飛び込んできた奴を食べる。
どうやらドウガネブイブイみたいな金属光沢のある方が好きらしく、同じコガネムシでもコフキコガネは食べない。
コガネムシを食べるときはカリカリ音がする。
ヤギコも相当婆さんになったが、こんなものを食ってる限り、人間の婆さんのように骨粗鬆症にはならないみたいな気がする。
そのヤギコも今夜は子供が来ない夜なので、今はどこにも出かけず私の足もとに勾玉みないなかっこうで静かに寝ているけれど、9時を回ったらセミの採集に今夜も出かけるんだと思います。