凱風舎
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   うつくしきもの

 瓜に描きたるちごの顔。雀の子の、ねず鳴きするに、躍り来る。二つ三つばかりなるちごの、急ぎて這ひ来る道に、いと小さき塵のありけるを目ざとに見つけて、いとをかしげなる指(および)にとらへて、大人などにみせたる、いとうつくし。

(  かわいらしいもの。

 瓜に描いた赤ん坊の顔。雀の子がチュッチュッというとピョンピョンはねて寄って来る。二つ三つほどの赤ん坊が、急いで這って来る途中に、ほんの小さい塵のあったのを目ざとく見つけて、なんとも愛らしい指でつまんで、大人などに見せたのは、とてもかわいらしい。)

 

    ― 清少納言 『枕草子』 (石田穣二 訳注)―

 

 逃げない、と言えば、わたしが子供だった頃と全く違うのは、鳥たちが逃げなくなったことだ。
 今はどんな鳥も人が近づいてもなかなか逃げない。
 たぶんそれは鳥たちに危害を加える者が減ったからだ。
 昔の子供は鳥を見ると石を投げていた。(私だけか?)
 今はそんな子供はどこにもいない。
 でも枕草子の記述を信じれば、平安時代の雀の子も警戒心がないな。
 やっぱり、石を投げていたのは私だけなんだろうか。

 さて、今日も市役所の脇の緑濃い遊歩道を歩いていたらムクドリが十羽ほど私の前に餌をついばんでいたが、ちっとも逃げない。
 それでも3メートルくらいのところに私が来るとトコトコ前に進むのだが、全然警戒していない。
 そういえば、モーツァルトはムクドリを飼っていたそうだが、何がよかったんだろう。
 どう見てもこれはかわいくない鳥だ。
 横にいるスズメの方が断然かわいい。
 それは、スズメの方がムクドリより小さいこともあるが、それよりなにより、スズメがかわいい理由は絶対その歩き方にあるな。
 だって、スズメは両肢をそろえてピョンピョン跳ぶんだもの。
 これはかわいい。
 ハトとかムクドリみたいに肢を交互に前に出して歩くより断然カワイイ!

 ところで、今日の引用の「うつくしきもの」は中学校の3年生の教科書に載っていたのだが、国語の先生がその後半部分の解釈をした後、
 「こんなふうに子供のことを言ってるってことは、清少納言って、絶対子供を産んだことがない人なのね。女学生の発想ね」
と、独り言みたいに言っていたことがなぜかとても心に残っている。  
 中学生だったからまったくよくはわからなかったが(今でもよくはわからないが)
   ふーん、そういうものなのか!
と思ったのだ。
 子供を産まれたおかあさんたちに聞きたいのだが、本当にそうなのでしょうか。

 ところで、言うまでもないでしょうが、その先生というのは

  ながれのきしのひともとは
  みそらのいろのみづあさぎ

という「わすれなぐさ」を朗読して、ひとりうっとりしていたあの女の先生です。