わかる気がない
るす 高橋新吉
留守と言え
ここには誰も居らぬと言え
五億年経ったら帰って来る
ドアを開けたまま昼寝をしていたら、
「ごめんください」
とセールスマンがやって来た。
NTTの若いお兄さん。
光ケーブルが付いたから、パソコンの何かを光通信に変えてはどうかと言う。
私が
「別に今のままでも何の不都合はないからいいよ」
と言うと
「より便利になりますし、お得にもなります」
と言う。
「でも、いいよ。聞いても私、何がお得か何が便利かきっとわからないし」
と言って部屋に戻ろうとすると、笑顔で
「わかるようにちゃんと説明いたしますから、是非」
と言うので、こっちも笑いながら
「わからない、というのは、私にそれをわかる気がないってことなんだよ」
言ったら、お兄さんはなんだかキツネにつままれたみたいな顔をしていた。
変なおっさんだと思っただろうなあ。
でもね、お兄さん。
そもそも商品への欲望のないところに行ってその商品への欲望をかきたてるのがセールスというものなんだろうけれど、うーん、私のところに来られて、「得」と「便利」を説明されてもなあ。
そんなこと考えること自体、めんどくさい、と思うほど老化してしてしまってる人だからなあ。