「り」の字
家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころ、わろき住居は堪えがたきなり。
― 吉田兼好 『徒然草』 (第五十五段)―
暑い。
なかなかに暑い。
昼、そばを食ったら眠くなったので横になってたら、猫がそばに来て腹ばいになる。
暑いのにわざわざ寄って来なくてもいいのにと思うが、全くこの猫の考えてることはわからん。
わからんが、別に追い立てるまでもないから、仲良く並んで寝ることになる。
猫のやつも目いっぱい体を伸ばしている。
親子三人「川」の字になって寝る、というのがあるが、猫と二人だと、まあ、「り」の字だな。
開け放った玄関から時折涼しい風が吹き抜けていく・・・・。
などと、と思っているうちに本当に眠ってしまった。
夜、ニュースをつけたら「熱中症」が増えているという。
クーラーなんてなかった私らの子どもの頃はそんな名前の病気なんてなかったのに、あれは昔でいう「日射病」のことかしら。
でも、別にお日様に当たらなくても「熱中症」にはなるらしいからな。
それにしても、「熱中症」って、妙な名だ。
何かに熱中してるみたいに聞こえる。
要は「熱に中(あた)る」ってことなんだろうが、それなら、「中熱症」が正しいんじゃなかろうか。
毒に中るのが、「中毒」なんだものな。
昔はなんで、だれもそんなものに罹らなかったんだろう。
小津安二郎の映画なんかだと、みんなパタパタ扇子や団扇であおいでるだけなのになあ。
かき氷やら心太を食ってるだけだ。
私の部屋はさいわい窓だらけで、猫と寝てても平気なのだが、今はクーラーなんてのが当たり前になって、逆に兼好の言う「わろき住居」が増えすぎたせいで熱中症が増えたのではあるまいか。
まあ、日本の夏を昼寝もしないで過ごす、なんてのがそもそもばかげているのだよな。