少年老い易く・・・
紅マグロ、イエッ!
《猫正宗》、イエッ!
― ますむら・ひろし 『アタゴオル物語』 ―
晴れたので酒を買いに1キロ以上離れたJRの線路の向うの大型スーパーまで出かける。
酒なんてすぐ近くのスーパーにだって売っているのだが、どうせ買うなら石川県の酒を、というのはまあ、愛郷心、と言いたいが、要はその酒が気に入っているのだ。
それにしても、同じ嗜好品とはいえ、煙草、コーヒーとちがって一升瓶は重い。
しかも出不精ゆえ、一回に2本。
それをリュックに入れて背負えば、その重さにおのずと姿勢は前かがみになる。
同じ前かがみになるのでも薪を背負えば二宮金次郎だが、一升瓶二本、ですからね。
少年老い易く、酒精脳を侵す
朱子には鼻も引っかけられぬ、いかにもいかにものバカおやじである。
しかし、その姿のアホさ加減、なんだか自分が《猫正宗》の大きな瓶をを背負って歩いているヒデヨシになったようで、実は毎回なにかとても愉快な気分になるんですな。
ちなみに、ヒデヨシというのは、ますむら・ひろしの漫画『アタゴオル物語』に出てくる不死身のバカ猫です。
まあ彼の《不屈のバカさ》はまさに嘆賞に値するのですが、それに似ていることをいい年をしたおっさんがよろこんでるのもどうかと思います。
第一客観的に見て、この姿、美しくはありません。
せめて昔のように、恋のために千里の道をも遠しとはしない、というならまだしも、いまやその対象が酒なんですからねえ。
線路沿いに咲く白いツバナの穂が風に揺れて笑っておりました。
(ヤギコには《イカちゃん》という、はなはだ顔の大きな兄貴がおりました。
こいつはこのヒデヨシに容貌・性格がそっくりのバカでした。
雪の中を一日歩き、屋根に上って咆哮し、よその家の畳で寝ておりました。
けれど、不幸短命にして、桜の花の散る頃、冷たい雨の中で亡くなりました。
ほんとのバカは長生きできません。
それからしばらく、私はたいへん泣き虫でした。)