凱風舎
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巨匠?司氏

 

    原子力もんじゅふげんの次おしゃか

         ― 北川歩生 「万能川柳」 -

 

 私の記憶が正しければ、司氏のこの句がその名も高い毎日新聞の「万能川柳」に載ったのは、2004年じゃないな。それよりずっと前。今から10年以上も昔、福井にある高速増殖炉の「もんじゅ」だか「ふげん」だかが事故を起こした時だったはずだ。ちょうど私が金沢に帰る列車の中で開いた新聞に載っていたんだもの!
 見つけてみんなに見せてた記憶がある。
 あのころはまだ句会をやってた頃だからね、絶対20世紀のうちだよ。
 だから司氏の先見の明はますますすごい!・・・でも、こんな「先見の明」は証明されなかった方がよかったね。

 ところで、さっきグーグルで司氏の句を検索したら
  
   「ふげん」「もんじゅ」の次は「おしゃか」になるだろう、なんて冗談が昔あったなー

などというとぼけたtwitterを書いてる大学教授がいた。けど、まあいいか。それほど人口に膾炙した句になったってことは、司氏の句のすばらしさを証明するものかもしれないものね。
 でもね、一度誰かが言えば「なるほど」と思うけど、文殊、普賢と続いて次にすぐお釈迦さまが出てくるなんてのは、並みの教養じゃありませんぜ。少なくともこの二菩薩が釈迦像の脇侍として立っている方たちだということがわかっていないとこんなことは言えません。
 ああ見えて、司氏は若いころ法華宗の修行なされた人ですからね。法華経をとことん読み込んでらっしゃる。
 法華経というのは、私の浅い読解力では、ひたすら、ただ
   法華経っていうのはスゴイお経だぞ! この法華経はスゴイんだよ!!
ってことばっかり書いてあるうちに終わる、みたいなお経に見えるんだけど(絶対誰かに怒られるな。でも、お経っていうのはなんだか劇みたいなもんなんだよ)、そこではお釈迦様はもちろん、はじめからずっと文殊さんが出ずっぱりで、そして最後は普賢さんが出てきて話を締める、みたいな感じなんだ。
 そんなことちゃんと身にしみついているから、司氏にはすーとこの句ができたんだろうな。
 ちなみにいつぞやの凱風俳句に載っていた
  春愁と妙法下種は毛穴より
という怪句も彼の法華教養のなせる句だったんですよ。

 ところで、万能川柳はふだん私が新聞で一番初めに読むところ。ふふふ、て笑いながらね。
 でも、なかなか採用されないらしいぞ。
 私の知る限り、私の知人でここに載る栄誉を得たのは司氏とあと一人高校時代の友人北井精一氏のみ。
 これも十年以上前、久しぶりに北井氏に会ったとき、彼はおずおずと、しかし自慢げに私や勝田氏を前にそこに載ったことを告白したものだった。で、彼に教えられた日付の新聞の縮刷版を図書館で見たら彼の句が載っている「万能川柳」の上に羽生名人の写真が載っていたのでにこにこしたこと覚えてる。北井氏は将棋が大好きなんだ。

 ところで、実は司氏はそれだけじゃない。《朝日俳壇》の金子兜太選に

  田起こしを見る野の花の風にあり

という名句で選ばれております!
 まあ、みんななんとなくわかると思うけど、司氏というのは全くの「非・権威的」お人柄なので、選ばれたからといって何ありがたがるわけでもなく、続けて投稿なんてことしない人ですからね、その打率は相当だと思います。オープン戦の松井以上は固いでしょう。
 今は凱風俳句に専念されているようですが、こないだ朝日の俳壇が募集したというj震災俳句、選ばれていた句のどれも司氏の
   たんぽぽの泥をかむりてなほおはす
という句にまさるものはないと私には思われたなあ。

 おうっと! こういうのを「贔屓の引き倒し」というんだったかな。