UFO
薬罐だって、
空を飛ばないとはかぎらない。
水のいつぱい入った薬罐が
夜ごと、こつそり台所をぬけ出し、
町の上を、
畑の上を、また、つぎの町の上を
心もち身をかしげて、
一生けんめいに飛んで行く。
天の河の下、渡りの雁の列の下、
人工衛星の弧の下を、
息せき切つて、飛んで、飛んで、
(でももちろん、そんなに早かないんだ)
そのあげく、
砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花、
大好きなその白い花に、
水をみんなやつて戻つて来る。
― 入沢 康夫 「未確認飛行物体」 ―
このヤカンはいい奴だね。