凱風舎
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風邪の翌日

 

  

 雨の音がしている。さっきから目は覚めている。ただ、自分にどこまで力が戻っているのか不安なのだ。だから、まだ目をつぶっているのだ。そうは言っても、シャツはもとより、シーツも枕も汗でぐっしょり濡れている。まるで、湿地に倒れこんでいたかのように体中が冷たい。そろそろ起きなければならない。体中がべとべとしてきもちがわるい。少なくとも、それを気持ち悪いと思えるだけの力は戻ってきているということだ。

 起き上がってストーブを点け、体温を測る。
 35.7℃
 頭はまだ痛むが、平熱に戻っている。
 それにしても、わずか2度にも満たない体温の上昇があれほど人の体から活力を奪うとは、人というものがどんなにか細いロープの上を綱渡りしているものなのかと改めて感じてしまう。自分の意思とかかわりなくそのようなホメオスタシス(恒常性)を維持している身体のけなげさを思う。
 自分でこれが自分だと思いこみ思いあがっているもののなんという頼りなさ!
 ふろに入って汗を流す。ようやく人心地が付く。

  ピィーヨ、ピィーヨ。
 外でヒヨドリの声がする。雨が上がったのかと思って窓を開けてみたら雪だった。どうやら鳥は雪でも鳴くらしい。
 ヤギコは椅子の上で眠っている。
 私もとなりの椅子に座って本を読む。

 「ロビーノ君、人生には解決法なんかないんだよ。人生にあるのは、前進中の力だけなんだ。その力を造り出さなければいけない。それさえあれば解決法なんてひとりでに見つかるのだ」

                 ー サン・テグジュペリ 『夜間飛行』 (堀口大学訳) -

 いつ読んでも、このリヴィエール氏は人に力を与えることを言う。言うとおりだ。風邪で萎えた心にはちょうどいい本だ。元気になる。 立ち上がり、前進するーーたぶん、それさえ出来れば人生のおおよそのことは解決するのだ。

 今日は月曜日。もうすぐ、元気な小学生たちがやって来る時刻だ。
 部屋をちゃんとしておかなくては。