ヤギ子
ヤギ子は、お母さんの子どもです。
お父さんはどこかのゴロツキです。名前もおそらくないでしょう。
ヤギ子はセンセの家に住んでいます。
センセの家には毎日いろんな人がたずねてきては、いろんな話をして帰ってゆきます。
ヤギ子には、センセがどんな話をしているのか、てんで、見当もつかないのだけれど、お客さんは大好きなので、
いつでも上機嫌です。
ヤギ子には兄弟がいました。
頭の大きいお兄さんと、ビッコをひいた中兄ちゃんと、クロ君(女の子だけどね)がそれです。
ほかにも、いろいろいたような気がするけれど、ヤギ子はみんなわすれました。
ビッコを引いていた中兄ちゃんはいい奴でした。
白黒で、頭の大きいお兄ちゃんよりは全体、小さくて、ちょっと臆病だったけど、ホントにいい奴でした。
クロ君は、美人さんでした。
クロ君とヤギ子は、同い年です。元気で、かわいげのあるクロ君はみんなの人気者だったんですよ。
頭の大きなお兄ちゃんは、おっきくて立派な顔を持った男の子でした。
センセはイカちゃんなんてって、お兄ちゃんを大変好きなようでした。
雨が降ろうと、雪が降ろうと、津田沼の治安を支えるべく、お兄ちゃんは遠くまで遠征していたのですよ。
気づいたら、クロ君とヤギ子とビッコを引いた中兄ちゃんと頭の大きなお兄ちゃんとお母さん。
6人家族センセの家に寄り添ってニャーニャー言っていたのでした。
やがて、お母さんがいなくなりました。
お母さんは、眠るとビクッビクッって震えて、それから、おしっこしちゃったりするけど、
ホントに優しい人でした。
生まれたばかりで、ニャーニャーしているばかりのヤギ子を優しく舐めてくれたんですよ。
ビッコを引いていたお兄ちゃんがいなくなり、
クロ君がいなくなり、いつか、あの、どんな遠くに遠征に行っても、ひとたびカツオの匂いがすれば、
30秒で姿を現す頭の大きなお兄ちゃんがセンセの家から
いなくなり、ヤギ子はセンセと二人になりました。
2人になったけどヤギ子は全然さびしくないのでした。
だって、毎日センセをたずねてくる人がいるし、みんなヤギ子の立派なアゴヒゲと背中をなでた時の
姿勢の良さをほめてくれるからです。