凱風舎
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まずは一安心

学校がひけて来ると、彼女はかあさんにいいお点を貰ひましたと申しました。そしてその後で付け足してかう申しました。
「いいお点て、何になるの、ねえ、かあさん?」
「いいお点と云ふものは別に何の役にも立つものではありません。」と、エムリーヌのかあさんはお答えになりました。
「そのためにこそ正しく貰って自慢になるのです。あなたもきっと今に判りますよ。一番値打の高い報酬は利益のつかない名誉を与える報酬だと云ふことが。」

                   ー アナトール・フランス 『昔がたり』 -

 昨日と一昨日が県内の私立高校の合格発表の日であった。
 昔と違って生徒の数が減った今日では、まず落ちることはないだろうとは思っている。それに、学校の先生だって、まさか落ちそうな学校をすすめない。とはいえ、今年の生徒の中には学校を休みがちな子が一人いる。少し心配だった。けれど、午後にはその子からも「合格しました」の電話が届いて、言えば、その知らせが今年の一番の私への誕生日プレゼントだった。私立を受けた子はめでたく全員合格である。
 今年の三年生は13人いる。私の狭苦しい部屋はイッパイイッパイである。男6人女子7人。なかなかにぎやかでよいクラスである。もちろんにぎやかなのは例年のごとく女子であって、私の一言半句、一挙手一投足の何がおかしいんだか毎日きゃっきゃと笑っている。男子はただただ苦笑いをしている。とはいえ、みんなちゃんと勉強もする。エライものだ。
 もっとも、思えば公立高校の試験もあと20日あまり。誰だって勉強しないわけにはいかない。そんな彼らは、引用したエムリーヌのように
 「いいお点て、何になるの?」
などと尋ねはしない。1点でも多く点を取ることが自分が志望校に合格することを確実にすることを知っているからだ。もちろん、私もそう言って彼らの尻を叩いている。
 でもね、と私は思うのだ。
 「いいお点と云ふものは別に何の役にも立つものではありません。」
というエムリーヌのかあさんのように言い切れるようになることが、《ものを学ぶ》ということの一番の尊さなのではないかと。
 まあまあ、そうはいっても、あと25日。皆、風邪なぞひかず、力いっぱい頑張ってほしいと願うばかりだ。